無借金経営の会社が2割前後であることを踏まえると、8割の企業は金融機関からの借入を行っており、どこかの金融機関がメインバンクになっているはずです。中には、通常メインバンクになり得ない政府系金融機関からの借入のみに意図的にしているケースもあるでしょう。
メインバンクとの関係を踏まえて、借入金の金額や借入金融機関別の借入金シェアについては、ほとんどの経営者が気にされていると思います。一方で、借入金シェアに対応する形で、預金シェアについても気を配って管理していますでしょうか。
地域や金融機関によって借入金と預金シェアに対する姿勢には差がありますが、営利目的の金融機関では、借入金と預金のバランスが取引金融機関の収益に影響を与えるため、当然のことながら会社に対する融資支援の姿勢にも関わってくることを認識しておくべきだと考えます。
も く じ
Toggle借入金シェアと預金シェアの一例
例として、以下の借入金残高および預金残高シェアの取引状況にある会社を考えてみましょう。設定条件としては、事例で分かりやすいように、各金融機関からの借入金利を2%、預金金利を0%としております。
借入金シェアでは、AからDに降りるにつれて借入金の残高シェアが下がっており、本事例の会社では特段の事情が無い限り、A金融機関をメインバンクとして取引しているでしょう。一方で、預金については取引先や口座の利用状況から、預金シェアはB金融機関が最も大きく、その次にA金融機関が続いている形となっています。したがって、メインバンクと想定しているA金融機関ではなく、B金融機関の方が預金取引がA金融機関よりも大きい状態となっています。
意外とこのような状態にある会社も多く見受けられます。この状態の何が問題なのかについて、金利の観点から考えてみましょう。
預金シェアが金利に与える影響
金融機関には、表面金利と実質金利があります。表面金利とは、金融機関から提示される金利や、金銭消費貸借契約書に記載されている普段目にする金利です。一方、実質金利とは金融機関内部で考慮されるもので、預金と預金利息を考慮した上での金融機関における実質的な利益を示します。
実質金利は、以下の算式で求めることができます。
実質金利=(支払利息 - 預金利息) ÷ (借入金残高 - 預金残高)
上記の算式を基に、先述の借入金シェアと預金シェアの例について実質金利を計算したものが下表となります。
上表を見ると、実質金利はB金融機関が5%となっているため、この事例の会社にとって、B金融機関が最も利益率の良い融資取引を行っていることがわかります。一方、一般的にメインバンクとして認識されているA金融機関は、実質金利で見ると、一番融資シェアが低いD金融機関と同じ実質金利となっており、A金融機関から見ると、融資している割には利益率が低いという結果になります。仮にすべての融資取引がプロパー融資であるとすると、融資リスクに対してリターンが低い融資(特に表面金利が低ければリターンがさらに低くなる)となっている可能性が考えられます。
昨今の金融機関では、手数料収入などの役務提供による収益が重視されています。そのため、各種手数料取引や給与振込口座などの取引による収入も考慮され、銀行員も当然ながら「もうけさせてくれる会社」に融資をしたいと考えます。
そのため、実質金利ベースでどの金融機関を「もうけさせている」のかを理解した上で、金融機関との関係性の構築を考えるべきでしょう。
上記のような借入金と預金のバランスのことを「預貸バランス」といいます。A金融機関が預貸バランスをそこまで気にしておらず、会社側としてもA金融機関をメインバンクとして継続的に取引していきたい場合は、一旦は問題ないでしょう。しかし、A金融機関が預貸バランスに重きを置く場合は、売上の入金口座を変更してほしいなどの申し出があるかもしれませんので、取引先との関係性を踏まえ、預金取引のバランスにも注視する必要があります。
仮に、売上の入金口座をA金融機関に変更してほしいなどの申出があったときは、本事例のような実質金利での中身を見られている、A金融機関は預貸バランスを重視していると考えてください。
メインバンクの選定については、以下でも解説しておりますので、まだお読みの無い方やご興味のある方はご一読いただけますと幸いです。
会社規模に応じた中小企業のメインバンクの決め方:金融機関の違いを理解する
政府系金融機関で2,000社以上の中小企業を融資支援し、事業再生の現場に立ち会ってきた経験から、適切な財務管理と資金調達のサポートが中小企業の成長と事業の持続可能性に不可欠であると深く理解しています。
上記の他にも多数の銀行融資に係る資金調達の支援実績があり、直近では3年ほど融資が受けられなかった企業様においても銀行融資の調達実績がございます。
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