金融機関からの融資を調達している中小企業の皆様におかれましては、特に決算書の提出時や融資審査時に、金融機関からの評価が気になっていると思われます。赤字の状況や借入金の金額、はたまた自己資本比率など、少し財務指標について勉強された方なら、細かい数値面に目が行きがちになっている印象があります。
金融機関からの融資においてはいわゆる金融検査マニュアルに従っており、金融検査マニュアルそのものが廃止された後も、金商法における開示等の関係性を踏まえて基本的な考え方は変わっておりません。
そのため、全体像としてどのように金融機関が融資先である中小企業を見ているかを認識しておくと、金融機関とのコミュニケーションの齟齬などを防ぎ、円滑な融資獲得につながるかもしれません。
金融機関において融資した貸出金が回収できる債権なのかを評価するものが、簡単に言えば「自己査定」といいます。この「自己査定」から金融機関における見方が見えてきます。
も く じ
Toggle自己査定について
自己査定については、金融庁が作成したチェックリストにおいて以下の通り記載されております。
「資産査定とは、金融機関の保有する資産を個別に検討して、回収の危険性又は価値の毀損の危険性の度合いに従って区分することであり、預金者の預金などがどの程度安全確実な資産に見合っているか、言い換えれば、資産の不良化によりどの程度の危険にさらされているかを判定するものであり、金融機関自らが行う資産査定を自己査定という。自己査定は、金融機関が信用リスクを管理するための手段であるとともに、適正な償却・引当を行うための準備作業である。また、償却・引当とは、自己査定結果に基づき、貸倒等の実態を踏まえ債権等の将来の予想損失額等を適時かつ適正に見積ることである。」1
官公庁の文章なので、少し長くてわかりにくいですが、簡単に言い換えると、企業に融資した融資金が回収できるかどうかについて、一定のルールに基づいて金融機関が自ら行う作業のことです。
この自己査定の作業において、融資先企業を一定の区分基準に区分けします。この区分けを「債務者区分」といいます。細かいところを言えば、さらに貸した融資金を保全状況に応じて分類していきますが、かなりテクニカルな部分になり、中小企業の方々がこの点についてまで理解をする必要はないと考えているため、本ページでは説明を省いております。
債務者区分
区分けする債務者区分については、5つの区分があり順番に説明していきます。一旦は、「正常先」「要注意先」の定義を認識いただければ問題ないかと思います。厳密に把握しておく必要はないですが、金融機関が見ている視点を知っておくこと自体が金融機関からの調達を進めるヒントにもつながるはずです。
正常先
ほとんどの融資先がこの正常先に該当しますが、定義を見ていきましょう。
「正常先とは、業況が良好であり、かつ、財務内容にも特段の問題がないと認められる債務者をいう。」2
普段から何も問題なく融資が受けられている企業は、この「正常先」に区分されています。細かい正常先の考え方は、また別の機会で説明しようと思いますが、基本的には、後述する要注意先、破綻懸念先、実質破綻先、破綻先のいずれにも該当しない先を「正常先」とします。
要注意先
次は、要注意先の定義を見ていきましょう。
「要注意先とは、金利減免・棚上げを行っているなど貸出条件に問題のある債務者、元本返済若しくは利息支払いが事実上延滞しているなど履行状況に問題がある債務者のほか、業況が低調ないしは不安定な債務者又は財務内容に問題がある債務者など今後の管理に注意を要する債務者をいう。また、要注意先となる債務者については、要管理先である債務者とそれ以外の債務者とを分けて管理することが望ましい。」³
上記の定義からは、「業況が低調、財務内容に問題がある」といった形で、正常先よりも業況が芳しくない企業を示すようになりましたね。こちらの要注意先についても、細かい内容については別の機会で説明いたします。条件変更を実施しているいわゆるリスケしている企業もこちらに区分されますが、状況によっては後述の破綻懸念先に該当することもあります。
破綻懸念先
要注意先の次の区分となる破綻懸念先の定義を見ていきましょう。
「破綻懸念先とは、現状、経営破綻の状況にはないが、経営難の状態にあり、経営改善計画等の進捗状況が芳しくなく、
今後、経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる債務者(金融機関等の支援継続中の債務者を含む)をいう。具体的には、現状、事業を継続しているが、実質債務超過の状態に陥っており、業況が著しく低調で貸出金が延滞状態にあるなど元本及び利息の最終の回収について重大な懸念があり、従って損失の発生の可能性が高い状況で、今後、経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる債務者をいう。」⁴
要注意先よりは、かなり倒産しそうな表現に切り替わりましたね。破綻懸念先への融資は不良債権扱いになりますので、再生スキーム等の特殊な事情が無い限り、新規の追加融資が出ることはありません(できないことはないが、よほどの経済合理性が無い限りと考えていただければと思います)。
実質破綻先
破綻懸念先の区分となる、実質破綻先の定義を見ていきましょう。
「実質破綻先とは、法的・形式的な経営破綻の事実は発生していないものの、深刻な経営難の状態にあり、再建の見通し
がない状況にあると認められるなど実質的に経営破綻に陥っている債務者をいう。具体的には、事業を形式的には継続しているが、財務内⁵容において多額の不良資産を内包し、あるいは債務者の返済能力に比して明らかに過大な借入金が残存し、実質的に大幅な債務超過の状態に相当期間陥っており、事業好転の見通しがない状況、天災、事故、経済情勢の急変等により多大な損失を被り(あるいは、これらに類する事由が生じており)、再建の見通しがない状況で、元金又は利息について実質的に長期間延滞している債務者などをいう。」⁵
実質破綻先は、破綻懸念先と比較してみるとわかりやすいです。破綻懸念先は、「経営破綻に陥る可能性」としている一方で、実質破綻先では、「実質的に経営破綻に陥っている」「事業好転の見通しが無い状況」と断定表現になっています。この点を踏まえると、実質破綻先がより倒産直前の状況を示していることがわかります。
破綻先
最後は、破綻先になります。
「破綻先とは、法的・形式的な経営破綻の事実が発生している債務者をいい、例えば、破産、清算、会社整理、会社更生、民事再生、手形交換所の取引停止処分等の事由により経営破綻に陥っている債務者をいう。」⁶
こちらは破産などの法的整理事実に該当するため、いたって形式的な該当要件になっています。
債務者区分を全て説明しましたが、次回以降で融資判断の考え方を踏まえ、『正常先』や『要注意先』について詳細に解説いたしますので、続報をお待ちください。
最後に、政府系金融機関で2,000社以上の中小企業を融資支援し、事業再生の現場に立ち会ってきた経験から、適切な財務管理と資金調達のサポートが中小企業の成長と事業の持続可能性に不可欠であると深く理解しています。
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