日本政策金融公庫(以下、「公庫」とする)や民間金融機関から融資を受けて創業する際には、創業計画書が必要です。創業計画書には、経営者の略歴、事業の概要、資金調達の方法、事業の見通しなどを記載します。
特に創業融資においては、公庫からの資金調達を利用するケースが多いため、公庫の創業計画書のフォーマットに沿いながら、記載のポイントを審査担当者の視点から解説していきます。
も く じ
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公庫の創業計画書のフォーマットは、以下の形式です。PDF形式とエクセル形式がありますが、修正などを考慮するとエクセルファイルでの作成をお勧めします。フォーマットは、以下の各種書式ダウンロードのURLから入手できます。
書式に大きな変更は頻繁にはありませんが、一定の頻度で更新が行われます。古い書式を使用しても審査には影響しませんが、借入申込を行う際には、最新の書式を使用するようにしてください。公庫の創業融資では、全国一律でこの創業計画書の提出が求められますので、別途補足資料を添付する場合を除き、この創業計画書を使用して計画書を作成してください。
今後の事業を評価するためには、必要な要素が十分に盛り込まれているため、特に高額な資金調達を希望しない限り、このA3サイズの創業計画書をしっかりと作成するだけで十分です。各項目は共通していますが、第三者が見ても分かりやすいように、具体的かつ簡潔に記載してください。冗長な文章は読み手にとって理解しづらく、内容が頭に入りませんので、事業に関する知識がない第三者でも理解できるよう配慮してください。また、当該事業に詳しくない身内の方などに見てもらうのも良いでしょう。
各記載項目
創業の動機
以下で説明する創業計画書については、公庫からダウンロード可能な「創業計画書の記入例(洋風居酒屋)」を用いて解説を進めます。
創業の動機は、審査において重要なポイントです。事業に対する熱意や準備状況は、審査側がきちんと確認しますので、上記の記入例のように、できるだけ具体的かつ簡潔に記載するようにしてください。創業に対する想いを伝えたい気持ちは理解できますが、別紙などを使用せず、わかりやすくコンパクトに4行程度で内容を伝えることが望ましいです。
単純な熱意だけでなく、しっかりと準備がされた創業であることを説明できるとベストです。
身近な人や創業について話せる知人に創業の動機を見せ、その内容が第三者にも十分に伝わるか確認してみましょう。簡潔で、誰が見ても納得できるような内容を心がけてください。
経営者の略歴等
創業者の経歴によっては、公庫の書式にある6行に収まらない場合もあります。その際は、別紙に作成して略歴を記載しても問題ありません。記載の順序は履歴書と同様に、最終学歴から始めてください。
これまでの経験をもとに事業の実現可能性などが確認されるため、勤務先名だけでなく、担当業務や役職、身につけた技能も必ず記載してください。勤務先名のみの記載では、企業情報しか伝わらず、経営者としての能力や経験が事業にどう結びつくかが判断しづらくなります。勤務先名、役職、業務内容、年数を、上記の記入例に沿ってしっかり記載してください。
例えば、「居酒屋〇〇〇 3年、ダイニングキッチン〇〇 9年」といった記載だけでは抽象的で、創業に必要な経験があるかどうかを判断できません。具体的な業務内容や役職が分かる方が、審査担当者も経験を評価しやすくなります。第三者が見てもイメージしやすい、分かりやすい内容を心がけてください。
経歴の記載には漏れがないよう、過去に作成した履歴書などを手元に準備し、その時の役職や担当業務、身につけた技能を振り返ると作成しやすくなるでしょう。
取扱商品・サービス
それぞれの項目については、行数が少なくても冗長にならないように、第三者が見てわかりやすくコンパクトにまとめて記載してください。重要なポイントを簡潔にまとめるだけで十分に伝わります。その他に伝えたい情報がある場合は、公庫の面談時に補足として口頭で説明すれば問題ありません。
特殊な業界や商品を扱う場合や、商流が複雑でわかりにくい場合は、別紙で説明資料を用意するとわかりやすいでしょう。ただし、基本的には所定の枠内で簡潔に伝えることを優先してください。別紙はあくまで補足資料としての位置づけで使用しましょう。
例えば、創業計画書に既に作成したメニュー表を添付すれば、担当者がイメージしやすくなりますが、計画書の内容自体はそれだけで十分ですので、メニュー表は補足資料として使う程度で問題ありません。
また、セールスポイントや販売戦略、市場環境に矛盾がないかを必ず確認してください。これらがずれていると、創業計画の実現可能性に疑義が生じ、事業が成り立たないリスクが高まります。これらの点がきちんと整備されていないと、審査担当者に準備不足と見なされる可能性があります。事業の要となるセールスポイント、販売戦略・ターゲット層、市場環境については、しっかりと準備して記載してください。
従業員/取引先・取引関係等
従業員については、創業開始時に3か月以上継続雇用を予定している従業員を記載してください。創業後に従業員数が記載した人数より増加する場合は、後述の事業の見通しにその数字が正確に反映されるようにしてください。
販売先、仕入先、外注先などの条件を記載してください。記入例には「販売先・仕入先との結びつきがあれば記入してください」とありますが、記載するスペースがない場合は、公庫面談時に口頭で説明しても問題ありません。
販売先や仕入先を具体的に記載していないケースもありますので、記入例に従って記載してください。また、回収・支払条件は、必要な運転資金を算出するために重要な要素ですので、漏れなく記入してください。記入例レベルの内容ができていれば、十分な情報が提供されていると判断されます。
関連企業/お借入の状況
下図に記載されている関連企業がある場合、その関連企業も含めて与信判断が行われますので、該当する方は関連企業の欄に記入してください。必要に応じて、決算書などの資料の提出を求められることがあります。
借入の状況については、漏れがないように記載してください。下図は、個人信用情報機関の利用および個人情報機関への登録に関する説明で、借入申込書の裏面に記載されている情報です。借入申込時に以下の内容に同意が求められ、記載された個人信用情報機関の情報は与信取引の判断に利用されます。
そのため、一部の借入を記載しなくても登録されている情報は公庫側で確認できますので、漏れなく正確に借入の状況を記載してください。クレジットカードなどが複数枚ある場合は、カード欄にチェックを入れ、合計した借入残高と返済金額を記入する方法で問題ありません。
本内容では個人信用情報について詳しくは触れませんが、個人信用情報機関について知りたい方は、以下からご確認ください。
必要な資金と調達方法
上図の左側には、創業に当たって必要な設備資金と運転資金を記入します。設備資金が必要なケースがほとんどだと思いますが、該当設備については借入申込時に見積書の提出が必要となりますので、創業の時期から逆算して申込時に不足がないように準備してください。その上で、準備した見積書をもとに上図のようにできる限り具体的に記載してください。契約書ではなく見積書で構いませんので、申込の段階で正式な契約を結んでおく必要はありません(店舗等の賃貸借契約書も同様です)。
後述の事業の見通しを含めて、設備投資が過大でないか、運転資金が過少でないかをチェックします。また、自己資金の状況やその他の調達資金については、預金通帳など、第三者から見て客観的に確認できる資料を用いて実態を確認されます。
左側の必要資金合計金額と、右側の調達資金合計額は必ず一致しますので、金額にずれがないかを確認してください。自己資金については、預金通帳や証券口座など、第三者に対して客観的に説明できる金額が記載されているかもきちんと確認しておくと良いでしょう。
公庫のアンケートによると、公庫の創業融資を受けた企業の自己資金の割合は約25%で推移しています。このため、公庫の創業融資を受けている企業の平均的な自己資金の割合と比較してみてください。過去の記事には、創業資金の調達内訳の図表を載せていますので、参考までに以下のリンクからご確認ください。
事業の見通し
事業の見通しのポイントが最も重要ですが、これまで説明してきた経営者の略歴や取扱商品・サービス、取引先・取引関係、必要な資金と調達方法などが、開始する事業の見通しに反映されることを確認してください。具体的には、上図の記載例では、事業の見通しに記載されている人数と、従業員に記載されている人数が対応しています。
経費については比較的記載しやすいかと思いますが、売上高については上図のように、できるだけ要素を分解して記載してください。上図では、売上高は客単価×席数×回転×営業日数で算出されています。業態や業種によって売上の要素分解の方法は異なりますが、基本的には客単価×客数に分けることができ、客単価をサービス内容に基づいて分解したり、客数をターゲットとする年齢層に分けることも可能です。
回転数の要素を記載する際は、実際に稼働した場合に無理のない数値になっているかを確認してください。物理的に提供不可能な回転数は、実現可能性がないと判断されるため、現実的な数値よりも慎重に売上計画を作成することをお勧めします。
作成した計画書の数値が、創業する業種の平均と大きな乖離がないかを必ずチェックしてください。サービスの内容に特色がある場合や、ビジネスモデルや商流が従来と異なる点がセールスポイントと対応していれば問題ありませんが、平均的な同業種と大きな差がない場合は、計画書の精度が低いと判断されます。そのため、業界の平均値と乖離がないかを確認し、大きな乖離がある場合には、見識のない第三者に対して根拠をもって説明できる準備が必要です。
公庫が公表している小企業の経営指標調査については、以下のリンクから確認できますので、実際に操業を予定している業種の経営指標をチェックしてみてください。
最後に
創業融資の書き方について、公庫の記載例を元に審査担当者の視点を踏まえながら解説しました。
公庫の創業計画書はA3一枚の書式となっていますが、簡潔で誰が見ても分かりやすく記載するのは、作成し始めると意外と難しいことがわかります。事業が始まってからは後戻りができないため、創業計画書に必要な情報を集め、不足している内容を確認しながら着実に進めていくことが、創業後の事業成功確率を高めるでしょう。事前の創業計画書の練り直しは何度でも行えますので、ビジネスモデルや事業の方向性を、自他共に納得できるレベルまで仕上げてください。
最後に、政府系金融機関で2,000社以上の中小企業に対する融資支援および事業再生の現場に立ち会ってきた経験から、適切な財務管理と資金調達のサポートが中小企業の成長と持続可能性に不可欠であることを深く理解しています。これまでにも多くの銀行融資関連の資金調達支援実績があり、直近では3年間融資を受けられなかった企業様でも銀行融資を成功させた実績があります。
資金調達や資金繰り、経営に関するお悩みをお持ちの経営者の方は、ぜひ弊社までお問い合わせください。