令和6年度税制改正により、賃上げ促進税制における税額控除額が拡充されると同時に、中小企業限定で賃上げを実施した年度に赤字が生じた場合など、税額控除しきれなかった金額について、5年間の繰越控除が可能となりました(措法 42の12の5③、④、⑤、十二、⑧)。
下図は令和6年度税制改正、「賃上げ促進税制」パンフレットより引用。
今回は、この税額控除で得られるメリット税額を、以下の2パターンに分けたシミュレーション結果を記載しております。自社の状況に当てはめて、当該税制による優遇措置金額のイメージをつかむ一助となれば幸いです。
も く じ
Toggle前提条件
後述するシミュレーションケースにおいては、以下を共通前提としております。
- 賃上げ促進税制の中小企業に該当
- 税引前当期純利益については、所得金額と一致するものとして計算
- 対象開始事業年度の前事業年度(X-1年)の雇用者給与等支給額は30,000,000円
- 雇用安定助成額はゼロ
- 雇用者給与等の対象事業年度において、給与等支給額が3%ずつ増加し、適用税額控除率は30%
- その他の上乗せ要件は適用なし
①税引前当期純利益が800万円前後で安定推移しているケース
このケースでは、毎期賃上げ促進税制の税額控除を受けているものの、法人税額の20%の上限に達しているため、繰越控除の恩恵をまったく享受できていない状況です。
この条件下では、仮に教育訓練費の増加などにより税額控除率を高めようとしても、その効果は得られません。したがって、繰越税額控除を活用するためには、税引前当期純利益の増加を図ることが重要です。
所得金額が安定して推移しているシミュレーション結果からもわかるように、途中で欠損などが生じた場合、当期純利益が大幅に上昇しない限り、繰越税額控除額を使い切ることは難しいことが明らかです。
②税引前当期純利益がX+3年以降に1,500万円で推移するケース
X+3年に利益が倍増することにより、3年分の繰越税額控除額を全額解消できることがわかります。X+4年以降は、②の税額控除額が④の控除限度額を下回るため、教育訓練費などを適用することで税額控除率の上乗せを検討し、税額控除をより効果的に活用することが可能です。
ただし、今回の前提条件では賃上げの増加率を常に一定額に設定したシミュレーションですが、税額控除を使用する際には前年より賃金が増加していることが必要です。そのため、人件費を抑えて利益を出すと、過年度の繰越税額控除を利用できないことに留意が必要です。
上記のシミュレーションからも明らかなように、法人税の20%の控除限度額が繰越税額控除にも影響を与えるため、控除限度額が引き上げられない限り、あまり効果のない税制改正であると弊事務所では考えております。
したがって、本制度による税額控除を重視するよりも、本業の収益力を向上させることに注力する方がはるかに良いでしょう。
このような制度を活用するためには、事業計画書をしっかりと作成し、今後の経営方針を明確に定めることで、より効果的に優遇税制を活用できます。税務中心の顧問税理士から適切な財務アドバイスを受けていない方や、資金調達や借入状況が適切に構築できていない方、事業計画書の作成が未了で経営の方向性に悩んでいる経営者の方は、ぜひ弊社にご相談ください。
本件のシミュレーションは、繰越税額控除のイメージがわかりやすいように作成されたものですので、本シミュレーションに依拠して利用者等が被った損失について、弊事務所は一切の責任を負いません。実際の賃上げ促進税制の適用等については、必ず税理士によるアドバイスを受けてください。