Scroll Top

中小企業の財務改善!適切な銀行借入の方法

2024年6月末でコロナ関連融資が終了しました。コロナセーフティネット保証4号やコロナ借換保証、日本政策金融公庫等の新型コロナウイルス感染症特別貸付等の金利引き下げについても終了する予定となっております。1
今後は金融機関も、コロナ前の通常の融資スタンスにどんどん移行していきます。日銀の利上げにより短期プライムレートが続々と引き上げられ、融資も徐々に厳しくなってくると思われます。企業の財務状況に合わせた適切な銀行借り入れを意識して、財務改善につながる借入状況の最適化を図りたいものです。

取引すべき金融機関の数

現状取引されている金融機関の数はいくつでしょうか?
取引すべき金融機関の数は、多すぎても少なすぎてもいけません。

まずは、一般的な取引金融機関の数を見てみましょう
下図は、金融庁が毎年発表している「金融仲介機能の発揮に向けたプログレスレポート」でのアンケート調査内容になります。2
対象企業の属性等が不明ですが、4行以内の取引金融機関の会社が8割超を占めており、3行以下で企業の半数超を占めております。

中小企業における取引金融機関数の分布

業種業態によって必要とする借入金の規模は変わってきますが、借入金の規模に応じて必要とする金融機関数は以下と考えております。以下の借入金額は、必要とする資金需要額と対応しています。

  • 借入金額3,000万円以下:取引金融機関数2行
  • 借入金額5,000万円~1億円未満:取引金融機関数3行
  • 借入金額1億円超:取引金融機関数4行

取引2~4行のうち、政府系金融機関である日本政策金融公庫との取引は必ず行ってください。上記の規模レベルでは、ほとんどの融資が保証協会付きとなりますので、保証協会の枠をあらかじめ確保しておくことが必要となります
また保証協会の実質的な借入上限は月商倍率(借入金残高÷月商)で決まってきますので、売上の変動により変わります。保証協会付き融資の無担保の一般保証は8,000万円、月商の3か月(業種により異なる)。
3,000万円以内の資金調達であれば上記の一般保証の枠内に収まりますし、企業の規模も小さいですので、信用金庫と公庫の融資で十分賄えますので、むやみに借入先を増やさないことが賢明です。

借入規模が5,000万円を超えてきてからは、上記と対応するように民間金融機関の数を増やすようにしていくと良いです。新規銀行との取引開始方法が知りたい方は、弊社までお問い合わせください。

金融機関ごとの借入バランス

メインバンク、準メイン行、下位行との借入バランスを意識して銀行借り入れをしていますでしょうか。中小企業のほとんどがこの点を意識して行っていないように見受けられます。金融機関から提案があってから借りるのではなく、事業計画書や資金繰り表を基にして、会社側から資金調達のタイミングをコントロールし、借入のバランスも最適化したいものです。

NGな借入バランス

  • 各銀行からの借入残高が均一
    例えば借入金が6,000万円、取引金融機関3行の場合は、各取引金融機関の借入が2,000万円
    この借入については見かけ上のメインバンクが不在となるため、このような借入バランスとなっている場合は、次回から次々回の資金調達を見据えて適切な調達にリバランスしてください。
  • 一行取引
    メインバンクとなる金融機関の融資シェアが70%以上のメイン寄せとなっている場合
    この場合は、メイン行の意向に他行が引きずられてしまいます。業況の厳しい場合には、残高シェアの少ない下位行は、メイン行にすべて資金をまとめてもらって一括返済(銀行側からすると回収)を考えることも当然にあります。
    政府系金融機関時代には、メインバンクの残高シェア90%の会社も見ました。毎年支援をしてもらっている様子でしたが、年を重ねるごとに返済期間が短くなっており、日に日に資金繰りが悪化しており、銀行に首根っこをつかまれているような状態で、常に銀行の状況を伺わないといけない状態に置かれてました。このような状態では、他行の取引を新規に入れることも困難になりますので、早め早めの段階で借り入れのリバランスを図ってください。

理想的な借入バランス

メインバンクの融資割合が50%以下、サブバンクの借入が20~30%、その他下位行の融資割合は均等が理想的な借入バランスと考えております。できれば、メインバンクの借入は50%を超えないように40%~45%程度でコントロールしたいものです。借入金1億2,000万円、取引金融機関4行の場合は以下のイメージです(借入規模が大きくなく、かつ取引数が少ないうちは50%を超えても問題ないです)。
メイン5,000万円、サブ3,000万円、下位行2,000万円
業種業態と担保などの状況によって変わってきますが、参考にしていただけたらと思います。
また、地域によって異なりますが借入のバランスと預金のバランスは一致するようにしてください。ここでは説明しませんが、銀行においては実効金利の観点から実効金利から収益を見ていますので、この点もバランスを合わせるようにしてください。
2行取引の場合は、メイン1.5~2、サブ1の割合ぐらいで借り入れのバランスを構築してください(2行取引の場合は、サブは基本的に公庫)。

また、金融機関における1社あたりの融資残高を意識して資金調達をしてみてください3
こちらでも詳細に解説しておりますので、必要に応じて合わせてご確認ください。

会社規模に応じた中小企業のメインバンクの決め方:金融機関の違いを理解する

金融機関別に見た、渉外担当者一人当たりの取引先数、融資残高

運転資金見合いの短期継続融資

資金繰りに厳しい会社ほど、借入の口数が多く適正な借入が起こせていません。銀行員は融資ノルマ達成が第一であり、会社の適正な借入など考えておりません。銀行員から提示されるままの安易な銀行借り入れをすることはNGです。運転資金見合いとなる正常運転資金については、短期継続融資などで調達することが必要となります。

例えば、売上回収サイト2か月、仕入支払サイト1か月、月商の1か月分を在庫として保有している場合は、月商の2か月分となる正常運転資金が必要となります(下図の緑色)。

運転式見合いの短期継続融資のイメージ図

上記の緑色部分については、事業継続している限り必要最低限の運転資金部分となりますので、自己資本で見合いとなる正常運転資金の確保ができない場合は、借入金で2,000万円を賄う必要があります。
この部分の資金について、長期借入金で借り入れを起こしている企業が大半です。長期借入金となる証書貸付では、必ず毎月の返済となりますので返済が進むにつれて正常運転資金部分の資金が食い込む形となります。食い込むと手元の資金の取り崩しによって返済が行われますので、資金繰りが厳しい状況となります。また不足分の運転資金にてついて、借換ではなく、別口での融資を受けると実質の返済期間が短くなるので、年を追うごとに毎月の返済金額が大きくなり、資金繰りが悪化しているでしょう。

短期継続融資や、手形貸付での書き換え、当座貸越などで正常運転資金の見合いとなる融資を確保するようにしてください。そうすると資金繰りが改善していきます。
銀行員からの提案の鵜呑みにするのではなく、正常運転資金見合いの資金だから短期資金で調達をお願いしたいと申出してください。

更新が拒絶され、一括返済が怖いため長期での証書貸付を行っているとおっしゃられる経営者の方はおられますが、メガバンクを除きまともな金融機関であれば、更新ができない場合は長期資金で借り換えることが一般的です。
更新ができないため何も対応せず、一括返済を求めるのは「貸しはがし」に該当しますので、このようなケースが生じた場合は、専門家へ相談したうえで対応することをお勧めします(銀行の論理が把握できていない方が対応することは、かえって事態を悪化させる可能性があります)。

まとめ

取引金融機関の数、借入バランス、短期継続融資の3つを解説しました。
これら3つをすべて自力できちんとコントロールできている会社はたぶんいないと思います(できている企業は、もともと財務に非常に強い経営者でしょう)。
借入のバランスを意図的にコントロールし、資金調達の時期も会社側でコントロールして対応している会社であれば、中小企業のレベルではかなり高いほうに該当してきます。
メイン行に寄りすぎているケースを除けば、将来の資金繰りと事業計画を踏まえて借入のバランスを改善していくことは容易です。
本文章を踏まえて、コロナ後の平時の融資が適切に実施され、健全な資金調達のお力になれば幸いです。

政府系金融機関で2,000社以上の中小企業を融資支援し、事業再生の現場に立ち会ってきた経験から、適切な財務管理と資金調達のサポートが中小企業の成長と事業の持続可能性に不可欠であると深く理解しています。
とはいえ資金調達から経営までについて、何も分かっていない税務の専門家である顧問税理士に相談するのは愚の骨頂です。顧問税理士でこの辺まできちんと管理しているところを融資時代に拝見したことは残念ながらありません(管理できない、管理するつもりもないといった表現のほうが正しいです)。
資金調達から経営までどのようにしたらよいかお悩みの経営者の方につきましては、弊社までぜひお問い合わせください。

  1. 金融庁 コロナ資金繰り支援策の転換を踏まえた事業者支援の徹底等について https://www.fsa.go.jp/news/r5/ginkou/20240607/yousei.html ↩︎
  2. 金融庁 金融仲介機能の発揮に向けたプログレスレポートについて
    https://www.fsa.go.jp/news/r2/ginkou/20201014-1/01.pdf  ↩︎
  3. 中小企業白書 2016 第2部 第5章 第2節 中小企業と金融機関の関係性
    渉外担当者一人当たりの取引先数、融資残高より引用、作成
    https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H28/PDF/chusho/04Hakusyo_part2_chap5_web.pdf ↩︎